福岡地方裁判所小倉支部 昭和34年(ワ)215号 判決 1961年7月13日
原告 凪岩蔵 外一名
被告 石原キクヱ
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
(一) 当事者の申立
(1) 原告ら
「被告は原告らに対し、別紙目録記載(四)及び(七)の各家屋部分を収去して同目録記載(二)の土地部分の明渡をなし、且つ昭和三三年一二月二〇日から右収去明渡済まで一ケ月一坪につき金五〇円の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求める。
(2) 被告
「主文第一、二項と同旨」の判決を求める。
(二) 当事者の主張事実
(1) 原告らの請求原因事実
別紙目録記載(一)の土地(以下本件土地という)は、予てから原告らにおいて所有しているものであるところ、被告においては原告らに対し何ら対抗し得べき権原もなく、昭和三三年一二月二〇日以前から、本件土地の内別紙目録記載(二)の土地部分(以下本件土地部分という)の上に、同目録記載(四)の家屋部分(以下A家屋部分という)、及び(七)の家屋部分(以下B家屋部分という)をそれぞれ所有し、以て恣まに本件土地部分を占有している。よつてここに原告らはその所有権に基き被告に対し、右A家屋部分及びB家屋部分を収去して本件土地部分の明渡をすべきことを求めるとともに、昭和三三年一二月二〇日からその収去明渡済まで一ケ月一坪につき金五〇円の割合によるこれが賃料相当の損害金の支払を求めるため本訴に及んだ次第である。
(2) 右に対する被告の答弁(抗弁を含む)
(イ) 原告ら主張の右事実の内、原告らが予てから本件土地を所有していること、及び被告が原告ら主張の日以前から本件土地部分の上にA家屋部分とB家屋部分とをそれぞれ所有していることは、いずれもこれを認めるが、その余の事実は争う。
(ロ) 被告は昭和二三年一一月一日原告らから、本件土地部分を建物所有の目的で賃料一ケ月金二〇〇円賃貸借期間三年という約定の下に賃借し、爾来その契約を更新してきているのであつて、決して本件土地部分を恣まに占有しているわけではない。
(ハ) よつて原告らの本訴請求は失当であり、被告としては到底それに応じることができない次第である。
(3) 被告の右(ロ)の抗弁に対する原告らの主張
(イ) 被告主張に係る右(ロ)の抗弁事実はこれを否認する。もつとも原告らが被告主張の日にその主張のとおりの約定で以て、当時被告の夫であつた木村正夫に対し本件土地部分を賃貸したことはあるけれども、被告が本訴において該賃貸借を援用することは、次の各事由によつて、許されないところである。即ち、
(甲) 先ず該賃貸借は所謂一時使用のための賃貸借であつて、その約定賃貸借期間の終期である昭和二六年一〇月三一日限り賃貸借期間の満了によつて終了したわけのものである。そしてそれが一時使用のための賃貸借であつたことは、当該契約締結の経緯に照らして明らかである。即ち、右木村正夫は予てから別紙目録記載(五)の土地(以下本件隣地という)と、同目録記載(三)及び(六)の家屋とをそれぞれ所有していたところ、門司市の施行に係る土地区画整理事業のため昭和二三年一一月一五日になつて、本件土地が原告らに対する換地として指定せられた。その結果右木村としては原告らに対し、本件A家屋部分及びB家屋部分を収去して本件土地部分の明渡をしなければならない羽目になつたのであるが、当事者間においてその善後策につき種々話合をしたところ、木村においては三年後には原告らに対し右収去明渡をするということになつたので、ここに木村と原告ら間において、本件土地部分につき、その賃貸借期間を三年と定めた上、一時使用のための賃貸借契約をなすに至つたわけなのである。そうすると該賃貸借は昭和二六年一〇月三一日限り賃貸借期間の満了により当然終了したものといわざるを得ないのである。
(乙) ところで若し仮に右主張が失当であるとしても、前記木村正夫は昭和三三年一二月二日被告と協議離婚をしたものであるところ、同人においては昭和三四年三月一四日頃原告らに対し、本件土地部分に関する自己の占有を原告らに対して引渡す旨の通告をしたものであるから、木村と原告ら間の賃貸借契約は、それによつて完全に終了したものといわなければならないわけである。
以上のとおり、原告らから本件土地部分を賃借したのが、被告ではなくして、木村正夫であり、しかも木村の該賃借権は現在のところ被告においてこれを援用し得ないこと、上記のとおりである以上、被告の本件土地部分に関する占有は、何らの権原もなくしてなされているものといわざるを得ない。
(ロ) よつて被告の右(ロ)のの抗弁は失当である。
(4) 原告らの右主張に対する被告の答弁(仮定抗弁を含む)
(イ) 原告ら主張に係る右(3) の事実の内、原告ら主張の日に原告らに対する換地として、本件土地が指定せられたこと、及び被告と木村正夫とは曽つて夫婦であつたところ、その主張の日に協議離婚をしたものであることは、いずれもこれを認めるけれども、その余の事実はすべて争う。原告らから本件土地部分を賃借したのは、被告であるのみならず、原告らが曽つて木村正夫において所有していたと主張している家屋もまた当初から被告において引続き所有しているものなのである。そしてその間において、その土地賃借人またはそれら家屋の所有者として、木村正夫の名義が使われているとしても、それはあくまでも唯単に形式上だけのものであつて、それらの真実の賃借人若しくは所有者は、すべて終始一貫被告なのである。
(ロ) ところで若し仮に右主張が失当であり、原告らから本件土地部分を賃借したのが木村正夫であつたとしても、該賃貸借は所謂一時使用のための賃貸借ではなかつたところ、被告においては昭和三三年一一月二〇日頃右木村から当該賃借権の譲渡をうけたものであり、且つその譲渡については、原告らから黙示の承諾を得たものである。そしてその承諾を得たことは、次の事実からして明らかである。即ち、被告は木村と昭和三三年一二月二日に協議離婚をしたのであるが、それ以前から既に別居生活をしており、被告の方が本件土地部分上の家屋に居住していたこと、木村は右の日に被告と協議離婚をするや、即日本件B家屋部分を含む家屋につき、自己から被告に対する所有権移転登記手続をなしたものであること、及び原告凪は以上の事実をおそくとも昭和三三年一二月末頃までには知つていたにも拘らず、その後数ケ月間も被告に対し何らの申入もせず、その事態を黙過していたことなどからすると、もともと借地上の建物の譲渡は通常その借地権の譲渡をも含めてなされるものであると解されるべきものである以上、木村から被告に対する本件土地部分の賃借権の譲渡については、原告らにおいて暗黙の裡に承諾したものといわなければならないわけである。
(ハ) よつていずれにしても、原告らの本訴請求は失当である。
(5) 被告の右(ロ)の仮定抗弁に対する原告らの主張
(イ) 被告主張に係る右(ロ)の仮定抗弁事実中、木村が被告とその主張の日に協議離婚し、即日その主張の家屋につき自己から被告に対する所有権移転登記を経由したことは、これを認めるけれども、その余は争う。
(ロ) よつて被告の右仮定抗弁は失当である。
(三) 当事者の立証
(1) 原告ら
甲第一号証の一及び二、第二号証、第三号証の一乃至三、第四号証の一及び二、第五号証の一乃至四、第六号証の一及び二、第七号証、第八号証の一乃至三、第九号証の一及び二の提出、証人木村正夫の証言、及び原告凪本人尋問の結果の援用。
(2) 被告
証人清永スヱ、同阿部千之助、同稲吉関次の各証言、及び被告本人尋問の結果の援用、甲第四号証の一及び二の成立はいずれも不知、その余の甲号各証の成立はすべて認める。
理由
(一) 被告が昭和三三年一二月二〇日以前から、原告らの所有に係る別紙目録記載(二)の本件土地部分上に、同目録記載(四)のA家屋部分及び(七)のB家屋部分をそれぞれ所有していることは、当事者間において争がない。
(二) ところで被告においては、前記事実欄摘示(二)の(2) の(ロ)のように主張し、昭和二三年一一月一日被告において原告らから本件土地部分を賃借した旨抗争するけれども、その主張に副うが如き被告本人尋問の結果は、後記(三)掲記の各証拠に照らして考えてみると、たやすく信用して了うわけにはいかず、他にその主張事実を認めるに足る資料はない。よつて被告の右抗弁は失当である。
(三) ところが次に被告においては、若し被告が賃借したのでないとすれば、その頃被告の夫であつた木村正夫が原告らから本件土地部分を賃借したものである旨を主張する。ところで原告らが被告主張の頃右木村正夫に対し本件土地部分を被告主張のような約定で賃貸したことについては、原告らにおいても何ら争つていないのであるから、昭和二三年一一月一日原告らが当時被告の夫であつた木村正夫に対し、建物所有の目的の下に、賃料一ケ月金二〇〇円賃貸借期間三年と定めて、本件土地部分を賃貸したことについては、当事者間において争がないということになるわけである。しかしながら、原告らにおいては、木村に対する右賃貸借は所謂一時使用のための賃貸借であると主張するに対し、被告においてはそれを争うので、次にその点について考えてみよう。成立について争のない甲第二号証、第五号証の二乃至四、第六号証の二、第七号証、第八号証の二及び三に、証人木村正夫、同阿部千之助、同稲吉関次の各証言、及び原告凪並びに被告各本人尋問の結果の一部を綜合すると、次のような事実を認めることができる。即ち
(1) 昭和二一年頃新興商事株式会社なるものが、本件土地部分附近一帯の土地をその所有者から借り受けた上、その地上に本件B家屋部分を含む家屋その他の家屋を建築し、その頃同会社において右B家屋部分を含む家屋を木村正夫に対して賃貸したこと
(2) 木村正夫はその後右会社からその賃借家屋を、その敷地である本件土地部分を含む土地とともに買受けたのであるが、更にその後右買受土地の空地上に本件A家屋部分を含む家屋を建築し所有していたこと
(3) ところがその後門司市において施行した土地区画整理事業のため、別紙目録記載(一)の本件土地が原告らのために換地として指定せられたので(その換地関係の事実については、当事者間において争がない)、本件土地部分上にあるA家屋部分及びB家屋部分がそれだけ原告らの換地の中にくい込む結果を惹起したこと
(4) 右の結果、本来であれば木村正夫において即時本件A家屋部分及びB家屋部分を収去して本件土地部分の明渡をすべき筋合であつたわけであるが、原告らとしても、当初その所有地に対する換地として、本件土地以外の土地が指定されそうになつたのを、いろいろ折衝して本件土地を換地として指定して貰つた関係もあり、且つ土地区画整理事業の実施者側に対しても、木村正夫との間の事柄は適宜当事者間において話合によつて解決する旨を申し出ていたりしてもいたので、ここに原告らにおいては木村正夫に対し、前記の日にその主張のとおりの約定で以て本件土地部分を賃貸し、以て木村が原告らに対し本件土地部分の明渡をしなくても可いようにしたものであること
(5) ところで、その賃貸借期間は当初三年と約定されたわけであるが、それと同時に「但しその期間満了のときは本契約を継続するか又は更改をする」旨の約定がなされ、賃借人としてはなるべく賃借後三年内にその地上家屋部分を収去して本件土地部分の明渡をすることに努めることにはするが、若しその期間内に収去明渡ができないときには適宜その期間を更新する旨の話合が当事者間になされた形跡が窺われること
(6) その後木村はその妻の被告とともに、本件土地部分上に所在する家屋に居住し、原告凪は該家屋に接して右換地上に建物を建築し、そこで居住し営業しつつ、現在に至り、その間右木村に対し、賃貸借期間の満了により右賃貸借は終了した旨を主張し本件土地部分に関する明渡請求訴訟を提起したが、結局敗訴に終り、次いで被告を相手方として本件訴訟を提起するに至つたものであること
をそれぞれ認めることができる。この認定に反する原告凪及び被告各本人尋問の結果の一部は、いずれもたやすく信用することができないし、他にこの認定を覆すに足る資料はない。そこで考えてみるに、右認定の事実からすると、原告らと木村正夫間の本件土地部分に関する賃貸借は、借地法第九条に所謂「一時使用のため借地権を設定したることが明らかな場合」には該当しないものといわざるを得ない。そうだとすると、その賃借権は同法第一一条第二条本文により、本来であれば昭和五三年一〇月三一日まで存続すべき性質のものであるといわなければならない。
(四) ところで次に、原告らにおいては、被告は右木村正夫と昭和三三年一二月二日協議離婚をなしたところ、右木村においては昭和三四年三月一四日頃原告らに対し、本件土地部分に関する自己の占有を原告らに対して引渡す旨の通告をしてきたから、被告としては右木村の本件土地部分についての賃借権を援用することができない旨を主張するに対し、被告においては、被告と木村正夫とが右主張の日に協議離婚をしたことは相違ないが、その離婚に先だち、被告は右木村から本件賃借権の譲渡をうけたところ、原告らにおいてはその後默示の意思表示により、その賃借権の譲渡を承認したものである旨を主張して、互に対立している。そこで考えてみるに、被告と木村正夫とが昭和三三年一二月二日協議離婚をしたことは、当事者間において争がなく、成立について争のない甲第三号証の一及び二に、証人木村正夫の証言、及び本件弁論の全趣旨を綜合すると、被告と木村正夫との協議離婚は、家庭裁判所において、いろいろと調停を試みた結果、漸くなされ得たものであるところ、その離婚に際し、木村正夫は所謂財産分与として被告に対し、その所有に係る本件A家屋部分を含む家屋一棟及びB家屋部分を含む家屋一棟をそれぞれ贈与することとし、その旨の調停が昭和三三年一二月二日に成立したこと、その結果右各家屋につき、木村正夫から被告に対する右調停による所有権移転登記が経由せられたが、木村としては右各家屋を被告に対して贈与する際、それらの家屋の敷地の一部である本件土地部分に関する賃借権をも、ともに被告に対して贈与したものであることをそれぞれ認めることができる。この認定に反する資料はない。
そうすると、木村は原告らに対して有していた本件土地部分に関する賃借権を、被告との離婚に当り、その財産分与として被告に贈与したものであるところ、当裁判所としては、かかる場合においては、原告らの承諾の有無を問わず、被告においてこれが賃借権の移転を原告らに対して対抗し得るものと解するのが相当であると考える。その理由は次のとおりである。即ち
(1) 財産分与なるものは、その性質として、清算的性質、扶養的性質、若しくは制裁的(損害賠償的)性質などをいろいろと帯有しているものではあるけれども、現行法上その核心をなすものは、矢張り清算的性質であると考えられる。即ち、もともと夫婦の財産なるものは、その名義が夫または妻の単独である場合においても、これを実質的にみれば、共有的なものであることは疑い得ないから、その離婚に際しては、これが清算をなす必要があり、この場合夫または妻が自己の名義となつている特定の財産を、妻または夫に対して譲渡し、その名義に変更することが、とりもなおさず、財産分与なるものの中核であり、本質であるといわなければならない。この見地に立つて本件をみるに、本件土地部分に関する賃借権なるものは、なるほど木村正夫が原告らから取得したものであつて、顕在的には同人が単独の賃借権者であつたことには相違ないわけであるけれども、これを社会的乃至経済的見地からして実質的にみると、該賃借権については、同人の妻であつた被告においてもまた、その頃潜在的には若干の持分的権利を有していたものであることを、否定し得ないものと考える。そしてその離婚に当り、夫である木村正夫から、同人所有名義の家屋と、その敷地の一部である本件土地部分に関する賃借権とを、財産分与として贈与をうけ、取得したというのであるから、その結果として、被告の右潜在的な持分的権利が、木村の顕在的な権利を吸収して、顕在的且つ全一的な権利となり、ここに木村正夫に代つて、被告が本件土地部分に関する賃借権者として浮び上つてきたということになるわけである。従つて、この場合における権利者の交替は、顕在的な権利者が消失して、その後に潜在的な権利者が顕在化してきたという関係になるだけであつて、この種の事態が起り得ることは、賃貸人においても、その賃貸当初から、優に予想し得られたものであると考えられる。そうだとすると、本件における木村から被告に対する賃借権の移転は、賃借人において他の純然たる第三者に対しその賃借権を譲渡し、以て賃貸人との間における信頼関係をも破壊するに足るべき賃借人の債務不履行として構成している民法第六一二条第一項に所謂「賃借権の譲渡」には該当しないものといわなければならない。
(2) なお次に、本来賃借権なるものは、相続によつても取得し得るものであるところ、相続による賃借権の承継取得については、賃貸人の承諾を必要とせずして、当然その相続人において、自己が賃借権者であることを賃貸人に対抗し得るものと解されている。ところで財産分与をうけ得る者は、若し離婚することなくして、その相手方が死亡した場合においては、常にその者の相続人となり、しかもその法定相続分は三分の一乃至三分の二なのであるから、これを本件についてみるに、若し被告が離婚することなく経過し、木村正夫の死亡によつて、その財産を相続する場合においては、本件土地部分に関する同人の賃借権は被告において単独でこれを相続取得するであらうことは、想像に難くない。そしてこの場合においては、賃貸人である原告らの承諾なくして、当然に賃借権を取得し得るにも拘らず、偶々その相続開始に至らずして、離婚をするのやむなきに至り、しかもその際苦心の末、財産分与として特にその賃借権を取得し得たにも拘らず、その場合には賃貸人の承諾が必要であるということになれば、相続が死後における清算の一方法であり、財産分与が生前における清算の一方法であるという甚だ相似た作用を営む両者の性格からしても、その間における均衡を失することが甚しいものといわなければならない。このような見地から考えてみても、財産分与による賃借権の移転については賃貸人の承諾を必要とせずして、当然これに対抗し得るものといわざるを得ない。
以上により、財産分与として本件土地部分の賃借権を取得した被告としては、その点につき特に原告らから承諾をうける必要がなく(換言すると、木村から被告に対する本件賃借権の移転は、民法第六一二条第一項に所謂「賃貸人の承諾を要すべき賃借権の譲渡」には該らないものであつて、この点については、遺産の分割によつて農地の所有権を移転する場合においては、知事の許可をうける必要がない旨を特に規定している農地法第三条第一項第七号なども一脈相通ずるものがあることを窺うことができる)、当然原告らに対しその賃借権を以て対抗し得るものであるといわなければならない。
なお原告らにおいては、木村正夫が昭和三四年三月一四日頃原告らに対し、本件土地部分に関する自己の占有を原告らに対して引渡す旨の通告をしてきたから、それによつて同人の賃借権は消滅したものである旨主張するので、考えてみるに、木村がその主張の頃原告らに対し、その主張のとおりの通告をなしたことは、証人木村正夫の証言によつてそれぞれ真正に成立したと認められる甲第四号証の一及び二に照らして、明らかであるけれども、それは同人が被告に対し本件土地部分の賃借権を移転した後の事柄であるから、その一事を以てしては、それ以前において、既に原告らとの関係においても、完全に取得したことになつていた被告のこれが賃借権に対しては、何らの影響をも与え得ないものであること明らかである。
(五) 以上説示のとおり、被告は原告らに対し、本件土地部分につき賃借権を有しており、それに基いてその地上に本件A家屋部分及びB家屋部分を所有しているわけであるから、その然らざることを前提とする原告らの本訴請求は、失当であるというの外はない。
よつてその請求を棄却することとし、民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用した上、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂上弘)
目録
(一) 門司市栄町四番地の七
一、宅地 四三坪一合八勺
(但し別紙図面表示1、2、3、Hで囲まれた部分)
(二) 右(一)土地の内、北東隅の六坪二合の土地部分
(但し別紙図面表示斜線並びに点斜線の部分)
(三) 右(一)土地所在
家屋番号栄町五〇番の二
一、木造瓦葺二階建店舗 一棟
建坪 六坪
二階建 六坪
(但し別紙図面表示ABCDAの各点を順次結んだ線内の土地に在るもの)
(四) 右(三)の家屋の内、南西部の建坪及び二階坪とも各二坪八合三勺の家屋部分
(但し別紙図面表示斜線部分に在るもの)
(五) 門司市栄町四番地の八の土地
(但し別紙図面表示AGHEAの各点を順次結んだ線内の部分)
(六) 右(五)土地所在
家屋番号栄町五一番の二
一、木造スレート葺平家建店舗 一棟
建坪 七坪五合
(但し別紙図面表示DCFEDの各点を順次結んだ線内の土地に在るもの)
(七) 右(六)の家屋の内、南西部の建坪三坪三合七勺の家屋部分
(但し別紙図面表示店斜線部分に在るもの)
図<省略>